合川小春

夏生まれです! うさぎと豆腐と本が好きです!

夢五夜、あるいは一夜物語【創作小説】

今週のお題「夢」

 

先週までの残暑はどこへやら。昨晩はかなり冷え込んだ。

さすがに半袖長ズボンにタオルケット2枚という夏スタイルでは冷えに耐えられなかったので、11時半、目をしょぼしょぼさせながら長袖シャツをもそもそ出して着た。

それでも寒い寒い言いながら寝たので、眠りが浅かったのか、一晩のうちに夢を5種類くらい見た。しかも全部変な夢。

 

覚えているのだけ書きます。

 

 

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①かくれんぼ

 

私は家でかくれんぼをしていた。

私以外の家族全員がオニで、私を探していた。

エリアはこの家の敷地内。

 

下手に動き回るよりも、見えないところに隠れてやり過ごしていた方がいいだろう。

そう考えて家の床下に隠れていた。

目の前を通り過ぎるゴキブリを見てもなんとも思わなかった。

目の前の数匹のゴキブリよりも、オニに見つかる方がよっぽど嫌だった。

この時点でもう意味が分からない。

ゴキブリの方が嫌だろ。家族間のかくれんぼに命懸けてんのかい。

覚えていないだけで、実は命懸けていたのかもしれない。

知らんけど。

 

どのくらいの時間がたっただろうか。気が付くと床下には水が張っていた。

――やられた。水であぶりだす作戦か。

このままでは床下で虫と共にお陀仏だ。あとお腹空いた。

じりじりと横に移動し、床下から外へと少しづつ移動する。

外に出たころにはもうすでに床下、いや家の外は水浸しだった。

――あと5分遅かったらヤバかったな。

そんなことを考えたけれど、自分がいま寝っ転がっているのは、台所の勝手口の外であることに気が付いた。

運悪く、台所では母が料理をしている。見つかったら終わりだ。

母は勝手口の外に転がる娘には気が付いていない様子で、のんびり料理をしている。

 

ふと母が外を見ようとした気がしたので、私は慌てて水の中に潜って隠れた。

水遁の術、は使えないので頑張って息を止めた。

透明な水の底には黒い泥がたまっていた。

急にそれが何だか、たまらなくおかしいものに思えて、思わず笑ってしまった。

吐き出した大きな空気の泡がぼこぼこと顔の前をのぼっていく。

 

母が近づいてくる気配がした。

浅い透明な水の中に隠れるなんて、はなから無謀だったのだ。

私は観念して勢いよく顔を上げ、大笑いした。

気が付くと母が手を差し伸べていてくれたので、その手を取って水から上がった。

全身びしょ濡れで、歯をガチガチさせているのに笑っているのが面白くって仕方がなかった。

そんな娘の様子を心配そうに見ていた母は、「なんか食べる?」と聞いた。

私は「おにぎりとあったかいみそ汁。あと肉。ソーセージ食べたい」と言った。

どうやらかくれんぼに命を懸けていたのは、この家で私だけのようだった。

 

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➁洋館

 

ホラーゲーム「青鬼」の舞台のような洋館に私はいた。

赤い絨毯が至る所に敷き詰められている、立派な洋館だ。

 

脱出ゲームはこういうアウェーな場所で行われるからこそ面白みがあるんだろうな、と思った。

 

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③捨て子

 

母の運転する軽自動車の助手席に乗り、薄暗い町をドライブしていた。

早朝だったようにも思えるし、夕方だったようにも思える。

 

住宅街の道路だというのに、突然目の前の道にタヌキが一匹現れた。

「おっタヌキいる!」「轢かないように気を付けて」「全然逃げない 人慣れしてるのかな」など2人で話しながら、タヌキをよけて坂道を登って行った。

 

 

坂を下りると、今度は中央帯のところにポツンとかごが置かれていた。

大きさは赤ちゃんが入るくらいの、ゆりかごみたいな――

 

ゆりかご? 片側一車線の道路のど真ん中に?

その異常さに気が付き、急いで車を止め、かごの「中身」を確認しに行った。

かごの中には案の定、と言うか、赤ちゃん?がいた。

 

赤ちゃん? と疑問形なのは、そこの赤子が人間かどうかも怪しかったからだ。

その赤子は宇宙人グレイのように、人間の物よりもずっとずっと大きな、ギョロリとした眼球をしていた。

すやすやと眠っているので、まるでキツネのイラストのような顔つきをしていた。

肌は灰色がかったベージュで、赤ちゃん特有のぷにぷに肌ではなく、ゴムのような少し突っ張るような手触りだった。

宇宙人と聞いて思い浮かぶイメージやイラストのとおり、宇宙人の顔だった。

というか、宇宙人だった。

生後何か月かは分からないけれど、黒くてぱやぱやした髪の毛の男の子だった。

男の子、だと思った。

 

 

道路の真ん中に置いてあるゆりかご、という異様な状況を察知したのか、私たちの後続の車の人たちも様子を見に、ゆりかごの周りに集まってきた。

 

「どうします? この子。警察に通報で良いんでしょうか?」

「見たところひどく衰弱している様子もないし、とりあえず警察を呼びましょうか」

「捨て子でしょうか。だとしてもどうしてこんな、道路の真ん中に」

「誰が引き取るんですか」

 

周りの音がうるさかったのか、はたまた気が付いたらなんかデカいやつらに囲まれているせいか、赤子は薄く目をあけながらぐずり始めた。

 

「よちよーち 大丈夫でちゅよー」

私の隣の痩せたおじさんが赤子をあやした。

 

と、その途端。赤子の手足がにゅにゅにゅっと伸びた。

そのままの勢いで赤子はゆりかごをぬるりと抜け出し、おじさんの首にしがみついた。

頭の大きさは赤ちゃんなのに、胴体は小学1年生、手足は小学6年生くらいの長さ。それなのに手足の細さは枝のように細いのだから、恐ろしくてたまらない。

でけえアメンボみたいだ、と思った。

 

赤子?はおじさんの首にしがみついたまま離れようとしないどころか、ヒョロヒョロの手足でスリーパー・ホールドをかけようとしている。

 

「警察警察! 早くケイサツ呼んで!!」

「消防は!?」

「どっちでもいいよこの際!」

「やばいやばいやばい! 逃げろって!」

「大丈夫ですかー!?」

「うわうわうわうわ」

 

ギャラリーは阿鼻叫喚。

予想だにしない赤子の行動にパニックは最高潮。

頭の中がチカチカして、誰もかれも悲鳴を上げて、赤いパトランプが黄色く点滅して、そして――

 

 

――パッと赤子は消えた。煙のように。

赤子の首技から解放されたおじさんは地面に膝をついて倒れ、パトカーなんて一台もいなくて、私たちは薄暗い道路にぼんやり輪になって立っていた。

車のバッテリーは全員上がり切っていた。

 

誰かがぽつりと言った

――あれはキツネの仕業だわ。

 

誰も宇宙人の捨て子だとは言わなかった。

 

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④選択決定

 

私は夢の中で服を買おうとしていた。

赤い服にするか、生成りの服にするか。

別に買わなくてもいいのに、なぜか買わないという選択肢はなかった。

 

普段の私なら迷わず生成りの服にするだろう。

赤い服なんて似合わないし。合わせる服がないし。そもそも原色の服着ないし。

それでも私は迷っていた。

 

 

女の店員が横から声を掛けてきた。

――あなた、白い服は沢山持っているでしょう

一着くらい赤い服を持っていても良いでしょう ねぇ、ね、ね――

 

そう言われると赤い服を選らばなければいけないような気がする。

 

 

チーン

――お買い上げありがとうございました――

 

 

家に帰って洗濯をしたら、赤い服は色落ちしてオレンジになってしまった。

――ピンクですらねえのかよ

シナシナになった服を手に、思わず泣いてしまった。

そういえばあの店員。やたらと紅い口紅を付けていたなと思った。

 

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⑤部屋

 

気が付くと平行世界の自室にいた。

家具の配置や種類、数はあまり変わっていなかった。

しいて言うならば、小学校入学祝いで買ってもらった木の学習机が、灰色の事務用デスクに代わっていたことくらいか。

そんでもって、その事務用デスクの側面には、ピンクやオレンジのやたらでかい、変なデザインのステッカーがベタベタと張ってあった。

こっちの世界の私、趣味悪。と思った。

 

壁かけのカレンダーには謎の風景の写真(森?林?)が使われていて、月火水……の曜日の代わりにエレメントが描いてあった。

火曜日なら炎のマーク、水曜日ならしずくのマークのように。

あー、これはこっちの世界の方が分かりやすいかも。と思った。

 

 

カーテンを開けると窓には鉄格子がはまっていて、外には灰色の空と、カレンダーの写真にそっくりな謎の森が広がっていた。

 

 

やられた。私はこの世界の私にまんまとハメられたらしい。

そして私は今、ブラウザ版・無料脱出ゲームの世界にいることを悟った。

 

 

――脱出ゲームはアウェーの方が面白いとは言ったけど、自分がアウェー空間に送られるのは困るなあ

 

んー、でも鬼から隠れたり、化け物が襲ってこないだけマシかぁ。